本文へジャンプ
            SKYALL MOTHERにまつわるラブストーリー


妄想男のラブストーリー
俺はいつものように行きつけのオープンカフェに来ていた。
ここはとても落ち着く。
時間ができると俺はここに来て、オリジナルの紅茶を飲みながら読書をする。それが日課だ。

この日も俺が青空の下、読書をしていると店員の方に声を掛けられた。
彼女は目のパッチリした、可愛らしい女の子。

「あの〜、その本ってもしかして…。」
彼女は恥ずかしそうに言った。

「これ?俺が好きな本なんですよ。」
そう言って俺は本を閉じると彼女に本のタイトルを見せた。

「やっぱり!!私もその本大好きなんですよ。」
彼女ははしゃぎながら嬉しそうに笑った。
「でもそんなに有名な本でもないし…それなのに、もしかしてそうかなって、つい嬉しくなっちゃって!!急に話しかけちゃって、すいません。」
彼女の純粋な笑顔に俺まではにかんでしまう。

「俺、このラストのシャルロットのセリフが好きなんですよ!!」
「え〜、私もです!!何回もそこで泣いちゃいましたもん。」
「ホントですか?なんだか気が合いますね。」
「…運命ですかね??」
彼女は恥ずかしそうに顔を赤くした。

…っていうのは全てリョーの妄想の話だ。
現実はオシャレなオープンカフェなんかじゃなく、チェーン店のコーヒーショップ。
オリジナルの紅茶じゃなくて、一杯180円の激安コーヒー。

「やっぱ、これが現実だよね。」
リョーは店内を見回しながら、暗い声で呟いた。

リョーは21歳のフリーター。
趣味も夢もなく、毎日をただ呆然と生きてきた。
ようするにただの暗い、冴えない男。

でも最近は楽しみが出来た。
ここで彼女と出会ったから…。
それからはバイトが休みの日はいつもここに来ている。
それが唯一の楽しみだった。

ここに来て一日中、本を片手に彼女を見ながら妄想をする。
なんて楽しいんだ。
もちろん本にシャルロットなんてカッコイイ名前は出てこない。
愛読書は本の隙間から彼女を見やすいように持っているだけの週刊マガジン!!

でも妄想だけで満足だし、それだけで幸せなんだ。
妄想だったら傷つくこともないし、自分の思い通りになる。
100%幸せになれる、究極に幸せな趣味だ!!
これ以上の幸せな方法はほかにないだろう…。

彼女の名前は「秋吉」さん。
お似合いのエプロンに名札が付いていた。
でもそれを見るのにも3日かかった。
だって胸を見てると誤解されたら困るから…。

たぶん年齢は同じくらいだろう。
笑顔が可愛くて、目を合わすことも出来ない。

初めてこの店に来たとき、僕は一瞬で恋に落ちた。
「完璧だ!!」
僕好みのルックスに表情も良い。
雰囲気も落ち着いていて、洋服も可愛い。

まさしく理想の世界から飛び出してきたって感じだ!!
イッツ パーフェクト!!

でも別に恋人になりたいとか、そんなことは考えてもいない。
どうせ僕には遠すぎるほどの存在だから…。
勝てない勝負に挑んで傷つくくらいなら、僕はずっとここで妄想していたい。
それで充分幸せだ!!


それだけで幸せだったのに…それなのに、それなのに、それなのに…
僕の幸せを邪魔する事件が起きたんだ…。





それはバイト先が休みで、いつものようにあの喫茶店に行ったときの事だった。

「えぇ〜っと…じゃあ俺はサンドイッチセットと…君ね!!」

注文を取っている彼女に、指を指しながら全然笑えないギャグを言っている男がいる。
その隣に座っている男も笑いながら続く。

「それじゃ〜、俺も君がいいなぁ。俺はテイクアウトでね。」

彼女が少し怯えた表情で困っている。
いつもの優しい笑顔も引きつっている。
最悪の事態だ…。

「ねぇねぇ、今日は何時までなの?」
「そのあと遊びに行こうよぉ!!」

男二人がしつこく彼女に声を掛ける。

「い・いえっ…すいません。」

彼女が怯えた小さな声で答えた。


俺はスッと立ち上がると男二人に声を掛けた。
「彼女、困ってるだろ。その辺でやめときなよ。」

「なんなんだ、てめぇ〜!!」
「ぶっ殺すぞ!!」
男二人は立ち上がるとポケットから小さなナイフを取り出した。

「やれやれ…。」

男二人が襲ってくると、俺は素早くよけナイフを叩き落とした。
そして男の後ろに回り、腕を締め上げた。
男が苦しそうな声を上げる。
もう一人の男もそれを見て、後ずさりしている。

「まだやるならこの腕がどうなってもしらないよ。」
俺は冷静な声でにらみつけた。

そのあと男二人は逃げるように店を出て行った。

「ありがとうございます。」

彼女が俺に近づきながら、頭を下げた。

「いえっ、いいんですよ。」



「いいじゃん!!え〜、ダメなのぉ!?」
「やっぱダメだってさ…リョー。残念だったなぁ。」

やっぱり妄想。
僕はむかつきながらも何も出来ない。
彼女を助けることも出来ない。
出来るのは彼女を助ける妄想だけ!!
だって妄想なら絶対に勝てるし、助けられるから…。


それにしても今日は本当に最悪。
僕がバイト先の先輩を連れてきてしまったばかりにこんな事態に…。
僕のせいで彼女を苦しめることになってしまった。
本当に最悪の一日だ。


それはバイト先でのことだった。
いつもは僕に話しかけてもこない先輩たちが急に話しかけてきた。
たぶん暇だったんだと思う…。

「なぁ、リョーは好きなやつとかいないの??」

「あっ、いやっ…別に。」

僕はこの先輩たちが苦手だ。
…とゆーか、人と接すること事態が苦手でもある。

「いるんだべ!!本当のこと教えろよ。」
「そうそう、俺らがキューピットになってやるからさ。」

僕は少し恐かったとこもあり、二人にすべてを話した。
妄想していること意外のすべてを…。

そして今日の休みを使って、この喫茶店に来ることになった。
たぶん二人は暇つぶし…そんなの僕には分かっている。
でも断れない…そんな僕の性格。

そして結局はこんな結果だ。

この日のそのあと、彼女がフロアに現れることはもうなかった。
先輩二人は満足したのか、すぐに帰って行った。
店内は嵐が去ったあとのように静かになった。

まさしく最悪最低の休日。
でも最悪最低の休日がこのあと最良最高の休日に変わることになるんだ…。




僕はそのあとも沢山の妄想を繰り返した。
しかし彼女の困った顔や怯えた顔を思い出すと、妄想すらうまくいかなかった。

「ホントに最悪だ。」

僕は彼女にどうしても謝りたくなり、従業員出口で彼女を待つことにした。
あの二人を連れてきたのは僕の責任だ!!

しばらくすると私服の彼女が出口から出てきた。
Tシャツにジーンズというシンプルな着こなしがとてもオシャレで似合っている。
やっぱり可愛い☆


「あ・あああの…。」

緊張のあまり言葉が出ない。
彼女は振り向くと少し冷たい表情を見せた。
僕のこともあの最低な二人の仲間だと思っているのだろう…。

「あああの…さっきは…ああの…。」

やっぱり言葉が出ない。
そんな僕の態度に彼女が「クスッ」っと笑った。
やっぱり可愛い☆

「ここだとお店の前で邪魔になってしまうんで…。」

僕は言われるがままに彼女のあとを追いかけた。

「のど渇いちゃったんで、ジュース買っていいですか?」

彼女は立ち止まるとジュースの販売機にお金を入れ始めた。
本当は僕が罪滅ぼしに、おごってあげたかった。
しかしそれすらも恥ずかしくて言えない。

「よく来てくれますよね…お店に。」

「はははは…はい!!」

「今日の二人は友達ですか?」

「ははは…はい…あっ、いやっ…そのっ…。」

また彼女が「クスッ」と笑った。

「いやっ、その…今日はすいませんでした!!」

やっと言えた。
言いたかった一言がやっと言えた。
手のひらはもう汗でビッショリだ!

「えっ!?ぜんぜん大丈夫ですよ。それに…えっと、あなたが誤らないでください。あなたも困ったような表情をしてくれてたんで…。」

「い・いやっ…でも…。」

「お名前、なんて言うんですか?あなたじゃ、なんか失礼だから…。」
「あっ、はい。僕…僕…小松涼って言います。」
「私は…秋吉麗子です。」


そして二人の間に沈黙が流れた。
なにか話さないと…。
沈黙が重い…とてつもなく長い時間に感じてしまう。


「あの、レイコさんはもうバイト初めて長いんですか?」
「ん〜、もうすぐ一年になりますね。将来は自分でカフェをオープンしたくて勉強中なんです。」
「なんか素敵な夢ですね。」

彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「ホントはリョーさんが待っててくれてたとき、チョット嬉しかったんです…。」

「えっ??」

「だって…いつも見てたから。」


そう言うと彼女は恥ずかしそうに俺の前へと走った。


「俺も…俺もいつも見てました。」


ようやく伝えられた俺の想い…。


彼女は恥ずかしそうにうつむくと、歩道の段差に飛び乗った。
俺と彼女の目線が一緒になる。

「…なにしてほしいか分かりますか?」

そう言うと彼女はゆっくりと目を閉じた。

俺は静かに彼女に顔を近づけた。
唇と唇がゆっくり近寄る…。



「やめてください!!」

えっ??

僕は彼女に「バンッ」と強く離された。
僕のTシャツ一面に彼女の持っていたオレンジジュースが飛び散った。
まっ黄色の僕のTシャツ…。

僕はあまりの沈黙の恐ろしさにまた妄想を始めていたらしい…。
そして妄想と現実の区別がつかなくなった!!
ホント最低だ!!


「あっ、ごめんなさい!!急に近くに寄ってきたから、つい…。」
「いいいいいやっ、僕の方こそ…。」
「Tシャツ、汚れちゃいましたね。ホントすいません!!私の家、すぐそこなんで着替えていってください。」

僕は何も言えずに彼女のあとをついていった。
会話はやはりなかった。
彼女の家の前に着き、外で待っていると彼女から替えのTシャツを渡された。

「私のなんで少し小さいかもしれませんけど…。」

それはスカルの絵が描かれた可愛いTシャツ。
洋服に無関心の僕には着たこともないようなTシャツだった。

「ああああ…ありがとうございます。」


お礼を言って、僕は家へと帰った。
その足取りはなんだかとっても軽かった。

小さなTシャツを伸ばしてはいけないと、僕は玄関ですぐにTシャツを脱いだ。
蝶の羽の中にスカルの絵が描かれた「SKYALL MOTHER」というブランドのTシャツ。


そしてそのあとも僕は夜も眠らず、妄想を繰り返した。


そして決めた!!

このTシャツを返すときにお礼の食事に誘おう!!

そしてその誘う時の妄想を繰り返す。
いやっ、違う!!これはもう妄想なんかじゃない!!
これはシュミレーションだ!!!

ボクサーに例えたら、シャドーボクシングのようなものだ!!

僕は妄想男じゃなく、シュミレーション男になる決意をした!


そして僕はこのチャンスを作ってくれたTシャツを抱えて、彼女のいる喫茶店へと向かった。
いやっ、リングへと向かったんだ!!
それは恋のゴングを鳴らすために…。





なーんて、この話自体がもし全部妄想だったら楽しいかも…ね!?