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              HAWKにまつわるラブストーリー


あなたに会えたから…

空いっぱいに真っ黒な雲が広がり、大粒の雨がミウの体を冷たく濡らした。

ミウは焦って近くにあった洋服ショップの屋根の下に逃げ込んだ。
「はぁ〜。」
出るのは小さいタメ息。

空を見上げても見えるものは真っ黒な雲と、にじんだ雨だけ。

その時、一人の男がビショビショになりながら、ミウの隣に走り込んできた。
長い茶色の髪からボタボタと雨が流れ落ちている。

「マジ最悪!!なんだよ、この夕立!!」

男が急に空に向かって大声で叫びだした。それを見たミウが呆れたようにタメ息をついた。

「あっ、今タメ息ついたでしょ??」

男の名前はヒロキ。いかにも遊んでそうな感じだ。

「い・いえっ…。」

すぐにミウは顔を反らした。

「ねぇねぇ、凄い雨だね。」
「…。」
「ねぇねぇ、君ビショビショだけど大丈夫?」
「…。」
「ねぇねぇ、マスカラ落ちちゃってるよ。」
「…。」
「ねぇねぇ、聞いてる?」
「…いえっ。」

ミウの根気負け。

「やっと話してくれた。」
ヒロキは嬉しそうにミウの顔を覗き込んだ。
ミウはすぐに顔を反らす。

「ねぇ、そのTシャツかわいいね。どこで買ったの?」
「…ネットです。」
小さい声でミウが答える。
「ネット販売ってやつだぁ!!」
「は・はい…。」
「じゃあさ…これからマン喫でも行こっか!?」
「はぁっ??」
あまりの急な誘いにミウが驚いて、おかしな声を出した。
「マン喫だったらパソコンもあるでしょ!?まぁ、いいからいいから☆」

そっとヒロキはミウの腕をつかむと雨の中、近くにあったマンガ喫茶に歩き始めた。
ミウは何も言えずにヒロキの後を歩き始めた。


「はーい、カップルシート二名でお願いしまーす!!」
相変わらずヒロキのテンションは高い。

カップルシートは個室のように小さな柵で区切られていて、二人用のソファが置かれている。
「あっ、先にトイレ行ってくんね。逃げないでよぉ!小の方だから、すぐに帰ってくるから。」
そういうとヒロキは足早に階段を降りていった。

「はぁ〜。」
出るのはタメ息だけ。

その時、「バサッ」とミウの視界が一瞬で真っ暗になった。
「チャント拭かないと風邪ひいちゃうよ。」
それはヒロキが投げた大きな大きなタオルだった。
「あっ…ありがとう。」
ミウは少し驚いた表情をすると、すがりつくようにタオルに顔をうずめた。
ヒロキはその姿をただただ見つめていた。

二人は並んで座ると、ミウがパソコンの電源を入れた。
パソコン画面が眩しいくらいに光を放つ。
それだけでヒロキは興奮していた。
「すっげぇ〜、これがパソコンかぁ。」
ミウがあきれた顔をした。

「ねぇ、メイクぐちゃぐちゃだけど大丈夫??」
急に耳元で囁いた。ミウは「ドキッ」としてすぐに立ち上がった。
心臓の音が大きくなる。
「トイレ…。」
「はいは〜い、いってらっしゃ〜い☆」

少し時間が経つと個室の柵が勢いよく開いた。
さっきと違うミウの表情。
「なんでもっと早く言ってくれないのよ!もうグチャグチャだったじゃない!!こんな顔で外歩いちゃったし、ここの店員さんにも見られちゃったしぃ!!もう〜恥ずかしい!!」
「だから言ったじゃない。最初に会った時もマスカラ落ちてるって。」
「えっ、ホントに?」
「ホントにぃ〜☆」

「でも良かった。やっとホントの顔を見れた気がする!」
そう言うとヒロキは小さく笑ってみせた。
ミウは「ブスゥ〜」と口を膨らませた。
「ホント今日は最悪!マジ最悪!!変な男にはからまれるし、彼氏にはフラれるし…。」

彼氏にフラれた…?
ミウはそのあと、はりつめていた糸が切れたように泣きまくった。大声で泣きまくった。
ヒロキの肩でがむしゃらに泣きまくった。それでも涙が止まることはなかった。
「うぅ…さっきもいっぱい泣いたのに…。」
「話さなくていいって。泣きたい時はいっぱい泣けって。それが1番。」
マンガ喫茶ってことも忘れて泣きじゃっくった。


そして二人は丁重に強制退出となった。


その頃にはもう雨は上がって、雲も合間から少し明るい光が差し込んでいた。
「お前のせいでサイト見れなかったじゃんかよぉ!!」
「しょうがないでしょ!!私は一時間前にフラれたばっかりなんだからね!!」
「そんな気の強い性格だからフラれるんだよ!!」
「なんですってぇ!!」
「声掛けた時はもっとおとなしい子かと思ったのになぁ!!」
「こんな性格で悪かったわね!これが本当の私です!さよなら!!」

そう言うとミウは早足に歩き始めた。

「お・おいっ、ちょっと待てって!!」
「なによ!?」
「最近のラブホじゃネットも出来るようになってるらしいけど行く?」
「バカっ!!」
ヒロキはその顔を見て、小さく微笑んだ。
「なによ??」
「少しは元気になったみたいで良かった。」


「…ありがと。」
「んっ??」
「ありがとうって言ってんの!!」
「…どういたしまして。」

「俺、ヒロキ。」
「私はミウ。」




ミウは家に戻ると、すぐにベッドの上に寝転んだ。

「はぁ〜ぁ。」
出るのは小さなタメ息だけ。

ミウは自分の左手の薬指に付いた石付きの細いリングを外すと、蛍光灯にかざしてみせた。

誕生日の時にくれたんだよね。すごく嬉しかった。嬉しすぎて泣いちゃったもん。
でも彼は少し戸惑ってたよね。

いろんな所にも行ったね。
遊園地も行った。ジェットコースター苦手なのに一緒に乗ってくれたね。
動物園にも行った。おそろいの象のぬいぐるみ買ったよね。チャントまだ持ってる?
いっぱいプリクラも撮ったね。いっぱい変な顔もしたよね。
そうそう、初めての温泉旅行。貸切で混浴とかマジ恥ずかしかったんだから。


思い出すのは楽しい思い出。なんでだろう…?
こんな時、嫌な思い出ばっかりだったら、もっとラクになるのに。

いっぱいケンカもしたよ。
嫌いな所もいっぱいあった。
…なのになんで思い出さないの?


ミウの瞳から光るものが「ツツツ」と流れた。

そのとき一瞬だけ、ヒロキの肩のぬくもりを思い出したんだ。ほんの一瞬…。

「なんであいつの顔なんて思い出さなくちゃいけないのよぉ!!」
ミウは焦ってうつ伏せになると、まるで水泳のクロールのように足をバタバタさせた。

「もぉ〜!!!」

ミウはリングを机の上に置くと、カバンから携帯を取り出した。
メールは入ってない。着信もない。
ガッカリしながらもセンターに問い合わせしてみる。
「新着メールはありません」

「はぁ〜ぁ。」
出るのはやっぱりタメ息だけ。

「もう明日は学校もバイトも休もう。学校で彼に会ったら嫌だし、こんなに目が腫れてたらどうせ外にも出らんないし…。」


結局ミウが眠りにつけたのは朝日が登った頃だった。

なんで夜ってこんなにいろいろと考えちゃうんだろう…。
いつもは暗くて眠くなるのに、こういう時は夜がホントに長く感じる。
なんで私をいじめるの?



ミウが起きると時計の針は4時をさしていた。
思ったよりグッスリ眠れた。昨日よりはなんだかスッキリしているみたい。

でも昨日より頭が冴えてるぶん、昨日よりもハッキリ思い出す彼の言葉。
「ゴメン…好きな人が出来たんだ。」

そんなのズルイよ…。

ミウは小さな声でバイト先に電話を掛ける。
「すいません…風邪ひいちゃったみたいで。休ませてください。」
今日は演技いらずだ。どうせテンション低いから。

そのあともミウは布団の上でずっとゴロゴロしていた。
頭の中は昨日彼に言われた言葉と楽しい思い出。

なにもしなくても時間は過ぎる。
時計の針はあっという間に夜の10時。
いまだに彼からの連絡は来ない。何度、問い合わせしただろうか…。
こんな時のメルマガメールってホントに邪魔。
着信に期待しただけむなしくなる。


ミウはゆっくり立ち上がると慣れた手つきでパソコンの電源を入れた。
眩しいほどの液晶画面がミウを襲う。

「そりゃあ、パソコンのメールになんて送ってこないよなぁ…いつも携帯だし。」

その時にまた一瞬、脳裏に浮かぶヒロキの顔。

「だからなんであんたが浮かぶのよ!!」


結局サイト教えてあげられなかったなぁ…。
あいつがいてくれたから正直救われた部分もあるのに…。
だって本当に死にたかったもん!

でも思ったよりも悪い人じゃなかったのかなぁ…。


「チャント拭かないと風邪ひいちゃうよ。」
「話さなくていいって。泣きたい時はいっぱい泣けって。それが1番。」
「少しは元気になったみたいで良かった。」


ミウは小さく笑うと、ヒロキに教えるはずだったTシャツ販売のサイトを開いてみた。
トップ画面には沢山のTシャツ写真。
ミウは新しく更新されたページを探した。


「これってあいつ…??」

掲示板のページに刻まれた「投稿者 ヒロキ」の名前。
送った時間は今日の4時半。
今はもう11時を過ぎている。

「ミウ、もしこれを見てたら初めて会ったお店に来てくれ。ずっと待ってるから!!」

ミウは掲示板に釘付けになった。

「なにやってんのよ、あのバカ!!」

そしてミウはもう一度、時計の方に振り返った。
11時10分。

「もういないよね…。」


「もういない」と思っても気にしてしまう時計の針。

「だってあれからもう7時間だよ…いるわけない。」


そう思っているのにミウの足は自然とヒロキと初めて会ったお店へと向かっていた。

「もう〜、あのバカ!やっぱり気になっちゃうじゃん!!」


そのお店はミウの家から歩いて15分。
着いたときにはすでに夜中の11時を回っていた。

「やっぱ、いないよね…。」

いつもは賑わってるこの道もさすがにこの時間には静かで、お店のシャッターも閉まっている。
ヒロキの姿もそこにはなかった。

「はぁ〜。」
出るのはやっぱりタメ息だけ。

タメ息をついて下の向くと、そこには大量のタバコの吸殻が落ちていた。

「これってあいつの…??」

ミウはゆっくりあたりを見回した。

「今タメ息ついたでしょ?」

聞いたことのある明るい声。
ミウは声がする方に振り返った。

「じゃーん!タバコ買いに行ってましたぁ!!でもすれ違いにならなくて良かった☆」
ヒロキは相変わらずのテンションで笑って見せた。

「あんた、ずっとここで…?」
「ずっと待ってるって言ったじゃーん!!」
「だって…もう7時間以上…。」
「ホントそのせいでタバコなくなっちゃたよ。」

ヒロキのその軽い口調に最初は驚いていたミウも呆れ始めた。

「ホント、バッカじゃない!!私があの掲示板見なかったら、どうするつもりだったのよ!?」
「そん時はそん時で運命じゃないって諦めたかなぁ…なんちゃって。」

「でも大変だったんだぜ!ここらへん探し歩いても見つからないし、どうしようかと思ったよ。そん時、そのTシャツのサイトのこと思い出したの!確か「HAWK」って書いてあったなぁ…って。」

ミウは着替えもせずに眠りについたので、今日も同じTシャツを着ていた。

「でも俺、パソコンも持ってないし、使い方わかんないし。そんでこないだのマン喫のお兄さんに頭下げて教えてもらいながら調べてさぁ…やっと見つけたってわけ。HAWKのサイト。」
「…あんたってホント、バカ!!サイト見つけたって掲示板はメールじゃないんだからねぇ!!私がたまたま見なくっちゃ意味ないんだからね!それに掲示板はそんな使い方するところじゃないし!」
「だって俺、パソコンわかんねぇもーん☆」


「でもなんでそんなに私のこと探してたの?」

ヒロキが初めて真剣な表情をした。

「俺、ミウの泣いた顔と怒った顔は見たことあるけど、笑った顔は見たことなかったから…見たかった。」


ミウの顔が電灯に照らされて赤くなる。

「あんた、バカすぎ…。」
ミウの瞳からコンクリートへと涙が落ちた。

「だって私、まだ彼氏のことが好きなんだよ…。そんなに簡単に忘れられないよ…。」

「それでもいいじゃん!いつかは必ず忘れられるよ。」

「だって私、口だって悪いし、わがままだし…。」

「それでもいいじゃん!それがミウなんだから。」

「なんでそんなに私のこと…??」

「なんでだろぉ…自分でもわかんねぇんだ!でもミウにまた会いたくなった。」

ミウは小さくうなずいた。


「じゃあ、俺が好きな人を忘れられるおまじないしてやろっか!?」
「えっ?」
「じゃあ、目を閉じて。」
「わかったぁ〜、目をつぶったらキスとかする気でしょ〜!?」
ミウが少し明るい表情で聞いた。
「バーカ、お前は中学生か!それともして欲しいのぉ〜!?」
ヒロキは冷やかすように笑って言った。
「バカっ!してほしくないですぅ〜!!」
そういうとミウはそっと目を閉じた。


すごくすごく優しい感じ。
心があったかくなってくる。
すごく落ち着く…あなたの手のぬくもり。

ヒロキは優しくミウの頭をなでた。
それはお母さんが子供に「よしよし」とするように…。
そう、それは不思議な魔法みたい。


「どう?少しはラクになった。」
ミウは何も言わずにうなずいた。
「これ、俺流のおまじない。良かった…少しでもラクになったなら。」


「ねぇねぇ、もしかしたらそのTシャツは本当に恋のキューピットかもなぁ。デザインもキューピットの絵だし。」
「これはキューピットじゃなくて、エンジェルですぅ!!」
「どっちも一緒でしょ〜!?」
「ぜんぜん違いますぅ〜!!」
「なぁ、俺もそのTシャツ欲しいんだけど…最近じゃラブホでもネットできるらしいんだけど行ってみなーい!!」
「行ってみなーい!!バーカ!!キャハハハ…。」



あなたに会えたから、笑うことが出来ました。
あなたに会えたから、忘れることが出来ました。
あなたに会えたから、私は今も元気です☆